パーソナルトレーナーの独立は簡単?ハードルは高いの?

パーソナルトレーナーになるためには、特別な資格が必要ありません。そのため「今日から自分はパーソナルトレーナーです」と名乗れば、あなたは今日からパーソナルトレーナーとして独立したことになります。

ただし、現実としては、パーソナルトレーナーを名乗るだけで生活していく収入を得るのはほぼ不可能。具体性のある事業計画のもと、いくつかのハードルをクリアしなければパーソナルトレーナーとして生活していくことは難しいでしょう。

逆にいえば、いくつかのハードルさえクリアすれば、十分にパーソナルトレーナーとして独立し生活できるということでもあります。ここでは、パーソナルトレーナーとして独立するために最低限必要なポイントについて見ていきましょう。

【ポイント1】パーソナルトレーナーとしてのスキルを磨く

パーソナルトレーナーになるには、大前提としてパーソナルトレーナーとしてのスキルが必要です。
お客さんの希望を叶えるための個別具体的なメニューを考案するためには、多くの経験と知識が必要。

また、マシンを使ってお客さんの体に負荷を与えることになる以上、個々の安全性にも十分配慮した指導スキルが必要となります。

一般の「筋トレマニア」程度の経験や知識では、とても事業としてのパーソナルトレーナーは務まらないと考えたほうが良いでしょう。

中には、トレーナーとしての仕事はプロを雇い、自分はオーナーとして経営側にまわる、というスタイルでの独立を目指している方がいるかもしれません。ただし、たとえ自分はトレーナーの仕事をしなかったとしても、集客やリピーター獲得のためには、トレーニングに関する最低限の経験や知識は必要となります。

パーソナルトレーナーの独立に資格は必要か?

パーソナルトレーナーとして独立するにあたり、特別な資格を求められるわけではありません。現実として、パーソナルトレーナーとしての経験や知識がなければ安定した収入を得ることは難しいかもしれませんが、経験や知識さえあれば、特別な資格を持っていなくてもパーソナルトレーナーとして独立は可能です。

ただし、利用者の視点に立てば、同じ経験・知識のあるパーソナルトレーナーでも、何らかの資格を持っている人のほうが信頼できるのではないでしょうか?

信頼は集客に直結する大事な要素なので、経験・知識に加え、できれば何らかの資格を取得しておきたいものです。
パーソナルトレーナーとしてお客さんの信頼に繋がる資格には、例えば次のようなものがあります。

・JATI-ATI(日本トレーニング指導者協会認定トレーニング指導者資格)
・CSCS(認定ストレングス・コンディショニングスペシャリスト)
・NSCA-CPT(NSCA認定パーソナルトレーナー)
・NESTA-PFT(全米エクササイズ・スポーツトレーナー協会認定パーソナルフィットネストレーナー)
・FCM(フィットネスクラブマネジメント)技能士
・NATA-ATC(全米アスレティックトレーナー協会認定アスレティックトレーナー)
・健康運動指導士
・理学療法士
・柔道整復師、など

理学療法士や柔道整復師は、専門の養成学校で所定の修業年限を経てから取得を目指す国家資格なので、取得までに時間がかかります。独立を急いでいる方は、その他の民間資格を目指したほうが良いでしょう。

【ポイント2】独立のための資金を調達する

パーソナルトレーナーとして独立した後の働き方には、業務委託やフリーランス、パーソナルジム開業など、いくつかの種類があります。

これらのうち、業務委託やフリーランスを選んだ場合には、さほど大きな資金はいりません。一方で、もし自分のパーソナルジムを開業する場合には、やや大きな資金が必要になります。

以下、自分のパーソナルジムを開業する際に掛かる主な資金や金額の内訳を見てみましょう。

物件の取得費用

自宅以外でパーソナルジムを開業するためには、賃貸物件を借りる必要があります。
賃貸物件を借りる契約の際に必要となるお金は、敷金・礼金・不動産仲介手数料・1~2か月分の家賃など。一概には言えませんが、物件の取得費用の合計は、概ね家賃の6か月分と言われることがあります。

内装や設備に掛かる費用

借りた物件をパーソナルトレーニングジム仕様にするため、壁やクロスの張り替え工事が必要となるでしょう。場合によっては、空調工事や給排水工事なども必要かもしれません。
工事が大がかりになれば、合計300~500万円ほどの費用となるでしょう。

トレーニングマシンの導入費用

本格的な業務用マシンを導入するならば、1台あたり50~150万円となります。
小規模なパーソナルトレーニングジムならば家庭用マシンでも代用できますが、家庭用マシンは1台あたり15~50万円ほど。

中には1台数万円という安価な家庭用マシンも販売されていますが、利用者の安全性を考慮すれば、あまり価格の安いマシンはおすすめしません。

広告宣伝費

パーソナルジムの開業に先立ち、集客のための広告を出す必要があるでしょう。
SNSなどの無料媒体から広告を出すことはもちろんのこと、専門業者に依頼して公式HPも設定するようおすすめします。
また、地域マーケットの特性によっては、新聞の折込チラシやポスティングが有効となる場合もあります。

当面の運転資金

パーソナルトレーニングジムを開業しても、一定のお客さんを確保するまでの間、通常は赤字が続きます。個々の状況により赤字の期間は異なりますが、少なくとも開業から3か月ほどは赤字になると考えておいたほうが良いでしょう。

この開業当初の赤字が原因でジムを畳むことにならないよう、事前に一定期間の運転資金を用意しておく必要があります。具体的には、家賃や水道光熱費などです。パーソナルトレーナーや事務員を雇う場合には、赤字期間の人件費も用意しておく必要があるでしょう。

結局いくら用意しておけばいい?

ミニマムなパーソナルトレーニングジムならば、概ね150万円ほどの資金で独立開業が可能です。一方、ある程度の規模を持つパーソナルトレーニングジムならば、1000万円以上の資金が必要となるでしょう。
一般的な規模のパーソナルトレーニングジムならば、500万円程度は用意しておきたいところです。

資金調達の方法

自分の貯金や親からの支援などで開業費を全額調達できることが理想ですが、それが難しいならば、外部から融資を受けて開業するしかありません。
主な融資の受け方を3つほどご紹介します。

日本政策金融公庫の融資を申し込む

日本政策金融公庫(政府系金融機関)では、独立開業を目指す方々に向けて、比較的低金利で融資を行っています。
後述する民間金融機関に比べて融資の審査が緩めなので、まずは日本政策金融公庫の融資を検討してみましょう。

事業計画が不明瞭だったり、パーソナルトレーナーとしての経験が不足していたりする場合、審査に落とされる恐れがあるので、事前に専門家へ相談するようおすすめします。

銀行などの民間金融機関へ融資を申し込む

銀行・信用金庫などの民間金融機関でも、開業を目指す方々へ融資を行っています。
ただし、民間金融機関の審査は日本政策金融公庫の審査よりも厳しめ。なおかつ、金利も日本政策金融公庫より高めに設定されていることが一般的なので、先に日本政策金融公庫の融資を検討してみたほうが良いでしょう。

なお、消費者金融では比較的緩い審査で融資を行っていますが、他に比べて金利が高いため、特別な事情のある場合を除いて利用はおすすめできません。

自治体の補助金制度を利用する

開業する方々に向け、自治体で補助金制度を用意している場合があります。開業を予定している場所の自治体に確認してみましょう。
東京都の場合、「創業助成金」という名称で最大300万円の補助金制度を用意しています(2023年7月現在)。

【ポイント3】開業の手続きを行う

資金を調達し、無事に開業できる運びとなったならば、税金に関連するいくつかの手続きを行う必要があります。
パーソナルトレーナーの場合、一般的には「会社」ではなく「個人事業主」として開業することが多いため、以下では個人事業開業に関する主な手続きをご紹介します。

開業届を提出する

開業してから1か月以内に、所轄の税務署へ開業届を提出します。ごく簡単な書類なので、専門家に相談しなくてもOK。税務署に赴き、職員に相談すれば書類が完成するまで親切に指導してくれます。

青色申告承認申請書を提出する

開業届と同時に、青色申告承認申請書を提出しておきましょう。
青色申告承認申請書の提出は、義務ではありません。ただし、提出しておくことで税金面での大きなメリットを享受できることから、特別な事情がある場合を除き、ぜひ提出しておきたいものです。

税務署に開業届を提出する際、同時に青色申告承認申請書も提出するだけで手続きが完了。書類の作成方法は、職員に尋ねれば丁寧に教えてもらえます。

個人事業開始申告書の提出

住民税や個人事業税の基となる書類として、都道府県税事務所へ個人事業開始申告書を提出します。
自治体の中には、開業届を提出すれば個人事業開始申告書の提出が不要なところもあるため、事前に開業予定の場所の都道府県税事務所へ手続き方法について確認してみましょう。

【参考】会社としてパーソナルトレーニングジムを開業する場合

個人事業主としての開業手続きは、上記の通り簡単です。書類作成から書類提出まで、丸1日もかかりません。
一方で、会社としての開業手続きはかなり煩雑で、手間もお金もかかります。具体的には、定款作成や公証役場での認証、法務局での会社設立手続きなどが必要です。

初心者が自力で会社設立することは難しいため、一般的には司法書士や公認会計士、弁護士などのサポートを受ける形となるでしょう。

パーソナルトレーニングジムの大規模展開をお考えの方を除き、まずは個人事業主としての開業からスタートするようおすすめします。

【ポイント4】集客活動をする

スムーズな開業当日を迎えられるよう、開業前からしっかりと集客活動を行っておきましょう。
開業場所や地域ニーズの特性、ターゲット層の違い等により、具体的な集客活動は異なります。開業後の運営を十分にイメージし、以下の中から取捨選択したりアクセントをつけたりしながら、適切な集客活動を行いましょう。

公式HPを設置する

もともとパーソナルトレーニングに関心のある人がジムの開業を知った場合、真っ先にチェックするのは公式HPでしょう。
検索したにもかかわらず公式HPが存在しない場合、大事なビジネスチャンスを逃すことにもなりかねません。公式HPは、開業前から閲覧できる状態まで完成させておきましょう。

SNSで情報発信する

公式HPの立ち上げと同時に、InstagramやTwitter、YouTubeなどのSNSを通じて情報発信を行います。
SNSの発信力は非常に高い上、基本的に利用料は無料なので、利用しない手はありません。

Web広告を出す

料金は掛かるものの、Web広告の専門業者に広告制作や発信を依頼する方法も効果的。Web広告の専門業者はSEOというWebマーケティング戦略を熟知しているため、効率の良い広告宣伝が期待できます。

ジムの前に看板を設置する

シンプルな方法ですが、ジムの前に看板を設置することも非常に大事な集客法です。
看板には、ジムの名前や場所を認知させる効果もありますが、加えて、初めてのお客さんに入店の敷居を低くする効果もあります。看板のない雑居ビルの一室では、入りたくても入りにくいでしょう。

ジムの前や最寄り駅の前などでチラシを配る

ジムの前や最寄り駅の前などで、開業を知らせるチラシを配りましょう。オープン記念キャンペーンなどの情報も掲載すれば、集客率が上がるかもしれません。

ポスティングをする

昨今では郵便受けへのポスティングがめっきり減りましたが、だからこそ、逆にポスティングによる広告は目立ちます。
やみくもにポスティングするのではなく、地域の年齢層や家族構成などを考慮してポスティングのエリアを絞り込むようにしましょう。

新聞に折込広告を入れる

世の中の大半の情報をネットで知ることができる時代となりましたが、年配者が住む世帯では、現在でも新聞を定期購読している例が一般的。また、時代を問わず年配者の間では健康が大事なテーマとなっているため、パーソナルトレーニングへの関心も小さくない世代です。

ちなみに、新聞の折込広告は、A4サイズ・B4サイズで1枚3円少々が相場。1万枚の折込広告を入れても、わずか3万円少々と意外にリーズナブルです。

【まとめ】独立して成功すれば収入が青天井になる可能性あり

パーソナルトレーナーとして独立するためには、当然ながら、パーソナルトレーナーとしての指導スキルが必要です。ただし、指導スキルだけで独立後に成功することは難しく、十分な資金調達や効果的な集客など、様々な努力と工夫が必須となることも心得ておきましょう。

独立して成功することは、決して簡単ではありません。しかしながら、雇われトレーナーとは違い、パーソナルトレーナーとして独立し成功すれば、収入が青天井となる可能性もあります。成功に向けた具体的なビジョンを描き、高いモチベーションを維持しながら着実に歩みを進めていきましょう。